
こんにちは、アキです。
あなたは、“学校給食で使われる食器”と聞いて、どんなものを思い浮かべますか?
地域や年代によっても異なるでしょうが、一般的によくイメージされるのは昭和を代表するアルマイト製の食器ではないでしょうか。
昭和生まれの私は、小学生時代、名古屋市の公立小学校3校に通いましたが、いずれも給食に使われていた食器はアルマイト製だったと記憶しています。
ちなみに、中学校も名古屋市の公立中学校2校に通いましたが、どちらの中学校も給食はなくお弁当でした。ランチルームやランチBOXは導入されていました。
同じく昭和生まれの夫は、名古屋市のお隣の日進市の中学校に通っていました。そちらの学校では給食があり、詳しい材質まではわからないがプラスチック製の食器を使っていたことは確かだそう。
そして現在小学5年生の娘が通う小学校では、娘が1年生の時には既に陶器が使われていたことから、学校給食の食器がどのように移り変わってきたのか、まとめてみました。
いつからアルマイト製食器が使われだしたの?
学校給食の歴史は明治時代までさかのぼります。
その頃の食器は各自持参で、瀬戸物と汁椀だったようです。
戦後も食器は各自持参。
その頃は持ち運びがしやすいという点で、主にベークライト(フェノール樹脂)の汁椀かアルマイト製の食器が使われており、子どもたちはそれらを給食袋に入れて、ランドセルの横につるして通学していました。
1951年(昭和26年)に第1号の学校指定食器として山梨県でアルマイト製食器が使われ始め、パン皿と、おかず皿、少し大きめの汁食器にミルク食器の全部で4種類あったそうです。
当時、アルマイト製の食器は普通の家庭では使っていなかったので、学校では保護者の理解を深めるため、保護者を学校にまねいて試食会を開くなどしてその普及に努めたようです。
1990年(平成2年)6月19日付で文科省が「望ましい食事環境づくり研究委員会平成元年度報告書」でアルマイト食器や先割れスプーンは家庭や地域での日常生活にそぐわないと指摘し、各都道府県教育長宛に改善を通知しました。
アルマイト食器は熱伝導率が高いため、熱い食材を入れるとお椀を正しく持つことができず、児童の多くがひっかけ指で食器を持つ傾向があること、また、先割れスプーンで汁物を食べようとすると、先っぽからこぼれてしまうため、全部こぼれないうちに口を持っていくことが犬食いの原因になることから、これら食器等の使用は子どもに望ましい食習慣を身につけさせる上で問題があると考えたようです。
以降、アルマイト製の食器は全国の小学校ではほとんど使われなくなっていきました。
その後の1997年(平成9年)の文部省調査では、学校給食で使用される食器について、アルマイト・ステンレス・メラミン・ポリプロピレンの使用率が減り、ポリカーボネートの使用校が5,240校から10,465校(33.5%)と伸びていました。
一方、陶磁器も3,121校から4,112校 (13.2%)と増えています。
急速にポリカーボネート製食器が普及していたことが、これらデータから読みとることができます。
これらは環境ホルモン(内分泌かく乱物質)問題が社会的に大きく取り上げられる前の調査であるものの、陶磁器が着実に伸びていることから、より安全性が高く、日常的に利用する陶磁器を求める声が確実に根付いていたことを示しています。
出典:1997年5月1日調査10月10日付文部省 学校給食実施状況調査結果の概要
また、 同年11月10日付の日本経済新聞によると、厚生省の「内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する検討会」は中間報告をまとめ、 ポリカーボネート製食器については、現段階で直ちに使用禁止などの措置を講じる必要がないとしつつも、健康影響の可能性は否定できないとしており、疑わしくても使うという姿勢を示していることは、 国民の健康をあずかる省庁の検討会方針として納得がいくものではありませんでした。
それを受け、各自治体はそれぞれの方向性を模索することになりました。
各自治体はそれぞれ、木製食器、漆食器を導入したり、強化磁器に切り替えたり、アルマイト製食器からポリカーボネット製食器に移行していたところも再びアルマイトに戻すなど、それぞれが方向性を模索しました。
翌年8月27日付新聞各紙ならびに文部省からの発表資料では、 文部省は1998年5月時点での全国の公立小中学校におけるポリカーボネート製食器の使用状況をまとめた結果、給食実施校の約4割、 12,409校がポリカーボネート製食器を使用しており、207の自治体では、他の材質に切り替え、 または切り替えを予定していることが明らかになりましたが、文部省としては、今後安全性についてなどの情報提供を行なうとしつつも、食器選択は自治体の裁量として特に見解を示しませんでした。
学校給食に限らず、食器の安全性というのは、常に高い関心を持たれるテーマのひとつで、当時の内務省(現厚生労働省)が食品衛生法内に食器の規格基準を設けました。
食品衛生法
nite独立行政法人製品評価技術基盤機構より
わが国における食器の安全性は、食品衛生法により規格基準が設けられ、その安全性が確保(保証)されています。食品衛生法第15条には、「営業上使用する器具及び容器包装は、清潔で衛生的でなければならない。」と定められています。また、第16条では、「有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着して人の健康を損なうおそれがある器具若しくは容器包装又は食品若しくは添加物に接触してこれらに有害な影響を与えることにより人の健康を損なうおそれがある器具若しくは容器包装は、これを販売し、販売に供するために製造し、若しくは輸入し、又は営業上使用してはならない。」と記述されています。したがって、有害な物質が溶出して人の健康を損なうおそれのあるような食器具は、製造、販売、使用ができないことになっています。
食品衛生法では厚生労働大臣が食器具について規格基準を設けることができることとなっています。その規格基準が「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年12月28日厚生省告示第370号)「第3:器具及び容器包装」(最終改正平成14年8月2日厚生労働省告示第267号)です。これによると、食品に直接接触するプラスチックは、種類にかかわらず適合しなければならない「一般規格」と、そのプラスチックの特性を考慮した類別の「個別規格」の規格基準に合格しなければなりません。上記の最終改正では、油脂又は脂肪性食品を含む食品に接触する器具又は容器包装にフタル酸ビス(2-エチルヘシル)を原材料として用いたポリ塩化ビニルを主成分とする合成樹脂を用いてはならないこととなっています。また、食品容器等からの化学物質の溶出規制は、昭和41年から始まりその後順次材質別の規制が告示されています。
例:食品衛生法に基づき定められたポリカーボネート製品の「食品、添加物等の規格基準」
こちらは見直し改善されながら、こんにちに至っています。
さらに1つずつ個別の規定ができてポリエチレン・ポリプロピレン・塩化ビニール樹脂・塩化ビニリデン樹脂・ポリスチレンというように樹脂について、1つずつ問題点が意識されるようにもなりました。
結局、最適な学校給食の食器とは?
学校給食で使う食器は、子どもたちの安全はもちろん、調理師さんの手間なども考慮した場合、結局どれが最も適しているのでしょうか?
学校給食の場合、同一の形状のものを使わなければならなかったり、同じような重さにするなど制約があります。
最も加工しやすいもの、割れないものとなるとプラスチックになりますが、軽すぎると洗浄する際に浮いてしまって洗えないのである程度の重さも必要となってきます。
家庭でもそうですが、洗い物をする前に食器を水に浸しておいた方が汚れが綺麗におちますよね。
学校給食の現場でもそれは同じで、アルマイト製だと重さがあるので水に浸しやすいけどプラスチック製だと軽くて浮いてしまう。
ではアルマイト製の方がいいのかというと、アルマイト製はアルマイト製で、食器同士がくっついてしまうというデメリットもありました。
ではプラスチックの良いところを残したままある程度の重さがあればいいのでは?という発想から開発されたものが、充填剤を加えて重くなるように加工し、水に沈むようにしたポリプロピレン製の食器でした。
さて、これで万事解決かといえば、そんなことはなく、今度はポリプロピレン製の油を吸収しやすい性質から、洗浄後の食器の着色が問題視されるようになりました。
次から次へと、ですね。
そこで次は着色しにくい素材として、ポリカーボネート製が出てきました。
ポリカーボネートのメリットは透明性・耐熱性がよくて、衝撃に強い。
さらに煮沸消毒ができるということ、以前から哺乳びんに使われていたこともあり、学校給食用食器に最適ではないかと検討が行われ、大量に導入されるようになりました。
しかしデメリットに加水分解性があり、分解して原料に戻っていく過程で、環境ホルモンの一種であるビスフェノールAが溶出されることが問題となり、多くの自治体で他の材質の食器への切り替えが進みました。
文部科学省の報告によると、その溶出量はごく微量で人体への影響はほとんどないとのことでしたが、 試験上いくら安全だと言ってもビスフェノールAが内分泌かく乱物質であり、それがごく微量でも含まれている食器を子どもに使わせるとなるとやはり保護者からはより安全な食器を求める声が強く出たそうです。
不思議なもので、家庭でなんの問題意識もなく日常的に使っている食器と同じ素材の食器が、こと学校給食に使われているとなると、途端に騒ぎ出す保護者がいたそうです。
自分ができないことを人に求める。
まあ、あるあるですね。
問題意識を持つことは大切ですが、私たちは表面上の騒ぎに惑わされることなく、根拠のあるデータにもとづいて一人一人がきちんと判断できるようになるべきではないのかと思います。
そしてポリカーボネート製食器の代わりに使われるようになったのが、磁器にアルミナを加え壊れにくくした強化磁器食器です。
しかしデメリットは重いこと。
重いので児童がかごに入れて持って運ぶのに、今まで1人で間に合ってたのが3人がかりで持たなければならないなどの理由から大量には普及しなかったようです。
その後も新しい素材で新たに開発された学校給食用食器が次々と出てきました。
その一つがPEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂を原料としているPEN製食器です。
PENは1945年にイギリスのICI社によって発明された古くから知られている樹脂で、 ポリカーボネート製食器より若干重く、原材料が高いので値段も高いが食材による着色汚れがないので洗浄しやすい。
PETと比べて耐熱性、耐薬品性、および耐加水分解性に優れており、またPET同様、ガス透過性および水分透過性が低く、食品成分や香気成分の吸着も少なく、さらに383nm以下の紫外線遮断性能を有するため内容物を紫外線から保護することができるという特徴をもっています。
出典:器具・容器包装専門調査会
これらの安全性はデータ不足で検証しきれていない部分もあることから、確実に保証されているわけではないことは忘れてはいけないですね。
情報の正確性など、今後どのように変わっていくのか引き続き注目していきたいと思います。
最後に。これからの学校給食(食器)はどうあるべきか、自分なりに考える。
食品衛生法の規格に合格していても時代の進歩とともに内分泌かく乱物質などの問題が出てくると、その時はよくても結果として良いか悪いかというのはその時代の後でわかる場合もあります。
それぞれメリット・デメリットがある。
一方的な意見ではなく、あらゆる分野の人間がそれぞれ責任を持って検討する。
もちろんそこに保護者も介入するべきだと思います。
必要に応じてその都度、材質なら材質についての食品衛生上の安全情報を集め、再度検討委員会でディスカッションして、その食器にした場合の経済的な問題や耐用年数、消毒・殺菌するまでの費用などあらゆることを調べて食器選定をしていく必要があると思います。
食器も大切ですが、それ以上に大切なのはやはり食事の内容だと私は思います。
理想を言えば、それぞれ献立に応じた陶器の食器を、大きさ・形・色と、バリエーション豊かに数種類組み合わせて使用することが最適だと思いますが、小規模の学校ならともかく、学校給食にそこまで求めるのはどうなのかなとも思うので、そのあたりは各家庭でしていただいて、学校給食にはやはり基盤となる食材、献立の見直しに今一度注力していただきたいというのが本音です。
栄養面についてもたびたび家庭で不足しがちな栄養素を学校給食で補いましょうといったようなことが謳われがちですが、そのたびに私の脳内はクエスチョンマークでいっぱいです。
基本は家庭です。
現在、娘の学校では箸は各自持参していますし、個人的には食器においても、戦前戦後のように各自家庭から持参するというのも、一つの在り方ではないかと思います。
あなたはどう考えられますか?